兵庫県は県内の瀬戸内海で、水質の環境基準を独自に見直す方針を固めた。瀬戸内海は水質改善が進んだ半面、魚介の栄養素となる窒素などの「栄養塩」が減り、漁獲量の減少やノリの色落ちが問題となっている。国の現行基準は窒素の濃度を、工場地帯などを除き主に海水1リットル当たり「0・3ミリグラム以下」としているが、県は「同0・2ミリグラム」という下限基準を加え、一定の窒素濃度を保つ考え。県によると、海水の環境基準に下限を設けるのは全国初という。(山路 進)
3日の県環境審議会の小委員会で新基準案を提示する。同委員会での議論を経て、早ければ年内にも下限基準が設けられる見通し。
県内の瀬戸内海の窒素濃度は、高度成長期直後の1977年度に1リットル当たり0・7ミリグラムまで上昇。窒素などの栄養塩を餌とするプランクトンの大量発生で赤潮が多発し「瀕死(ひんし)の海」と呼ばれた。73年には瀬戸内海環境保全臨時措置法(現在の瀬戸内海環境保全特別措置法)が制定され、工場排水などの規制が強化された。
これにより窒素濃度は年々低下。2016年度には工場地帯を除くと同0・14~0・18ミリグラムとなり、劇的に水質が改善した。一方、90年代半ばからノリの色落ちが顕在化し、近年は春の風物詩であるイカナゴのシンコ(稚魚)が極端な不漁に陥っている。
こうした問題から15年に特別措置法が改正され、「美しい海」を求めてきた政策を転換。水産資源が豊富な「豊かな海」を目指す理念を掲げた。18年には水産庁の外郭団体が漁業者らに対し、水産生物に最適な窒素濃度を「0・2ミリグラム以上」とする参考値を示していた。
県は同法改正などを受け既に、一部の下水処理場から海に流す水の窒素濃度を高める試みを進めており、新基準と合わせて対策を加速させる方針。
県環境審議会の委員会メンバーである藤原建紀・京都大名誉教授(水産学)は「窒素濃度0・2ミリグラム以下はダイビングに適するほどの透明度。瀬戸内海では海藻だけでなく、アサリや小魚などにも影響が出ており対策が急がれる」としている。
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【栄養塩】 植物プランクトンや海藻の栄養となる、海水中に溶けた窒素やリン、ケイ素など。不足するとカキの質低下などにもつながるとされる。植物プランクトンを餌とする動物プランクトン、さらにこれを食べる魚-という食物連鎖を支える要素にもなっている。
https://www.kobe-np.co.jp/news/keizai/201906/0012391196.shtml