“りょうし”への道-猟師編④

狩猟免許を取得するにはそれほど時間はかからなかった。

強いて言えば、医師の診断書ぐらいで、最初の受付で少し戸惑われるぐらい。

上司に免状を見せて、”とってきました”

”おーそうか、じゃあこの辺りは誰もやってないから、好きに掛けてみたらええわ”

やった!

自分が仕掛けた罠の見回りも仕事になった。

それらしい獣道に括り罠を仕掛けた。その時はすぐにはかからなかったが、2週間後ぐらいに中サイズのイノシシがかかっていた。

うおおおおー

この時の興奮は今でも忘れない。

散々今まで処理してきたはずなのに、この時は興奮で手足が震えた。

はあ、はあ、はあ、ついにやったぞ。念願の捕獲と止めさし。

猟師としての一歩。感無量である。

任期満了までにどれだけ経験を積めるか、それが勝負だった。

それからというのも、関わりのある猟友会のメンバーと罠猟についての話で交流が深まった。現役ハンターと同じ土俵に上がった気がした。

今思うといい時代だった。各支部・各エリア担当の猟友会メンバーと交流出来たことを。師匠という存在はいなかったが、いろんな人のやり方を参考にしながら独自の捕殺スタイルが形成されたこと。いい大人が本業傍ら狩猟に傾ける情熱。生き方や人生の楽しみ方をこの期間に教わった気がする。誰しも仕事上の愚痴や気に食わない事はあったと思うが、それを語るときも真剣であり、本当に狩猟が好きなんだというのがわかる。

一つのエピソードがある。齢80歳近くになる老ハンター。歩くのもままならず、杖を突いて山に行くのだが、罠をセットするには人一倍も時間がかかる。捕獲しても自分で仕留めることができないから、よく手伝うことがあったが、それでも見回りはできるからとその任務を放棄しなかった。縄張りを他の人に荒らされたくないというのもあるだろうが、

”わしゃ、狩猟がしたくて、ここに引っ越してきんだ、例え歩けなくなっても、飼うている犬に連れられてでも山に行ったるわ”

実際の見回りでは、犬の散歩がてら、犬に連れていってもらっていたようだ。

普通の用事であいさつするときはただの老人にしか見えないが、獲物がかかった時の反応は生気を取り戻したかのような目の輝きを放った。

狩猟というものがこの人の生きる活力なのだ。

そんなものが私にはあるだろうか(今はあると断言できる)。

もう一つのエピソードは影響を多大に受けた人物のO氏。

本業の事を聞くと、超多忙な感じの人であるが、緊急対応が必要な場面ではほとんど欠席をすることがなかった。動かしているものを考えると、大した金額を貰う仕事でもないし、そっちのけでやる事のメリットもないのにと思っていたのだが、狩猟の話をしているときは忙しさが紛れるのか本当に楽しそうに話す人だった。

ある場面では、全エリアの猟友会メンバーが一堂に会する研修会があった。もうそこに集まるメンツの濃いこと。その中でも若くして支部をまとめている姿は貫禄があった。

この人がいるから、後の人生で挑戦しようと思ったことがいくつもあった。

そんな貴重な時間にもタイムリミットが迫っている。魔法が解けるのをただ待つわけにはいかない。

もう一つのプラン、地元で趣味の狩猟をするというのを検討しなければいけない。

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