Yさんは会社とか組合では一目置かれる存在だった。
私は時間を守ることに関して少しルーズなところがあり、どうしてもばらつくことがあったのだが、Yさんはある決まった時間に来ては入念に出漁の準備をする人だった。
船上では、その一挙手一投足に目を配った。
漁に対しても珍しく合理的な人で、一度漁に出たら粘りたくなるが、いい意味で見切り・諦めが恐ろしく早い。時間を無駄にしない。
知的な感じで、情報通でもあった。
不漁で人手がいらない時期が来ると、Yさんは来なくなった。
”あの人は何してはるんですか?”
”あー網を作る手伝いしてるんよ”
”じゃあ、副業がありなんですか?”
”あー何生いうよる” ”あいつは特別や”
そんな感じだった。
本来3人でやる仕事を2人で任された時、本気のYさんの仕事ぶりは凄いの一言だった。
珍しく身の上話をする時があり、聞いてみた。
”なんか網仕事とか動きが上手ですけど、若い時何かやってはったんですか?”
”大学では陸上やってたなあ、海の仕事はそれからや”
なんで、そんな人が漁師の世界に?深くは聞かなかった。
私は猟師時代からある副業をしていた。その時間が欲しかった。
それがきっかけであるトラブルが起きた。
出漁しない時の仕事を陸仕事と言っていたが、どうしても仕事の時間を変更してもらいたかった。
”あー何いうとんねん?” ”そんなん許されるわけないやろ”
その時は早めに作業を終わらせたかった。
一人で作業していると、Yさんも早めに来ていた。
”何やっとんにゃ、それはこうするんや” 多くは語らなかったが、笑っていたのが印象的だった。
その後、なんかもやもやする時期を過ごしたのを覚えている。
不漁で満足に漁ができない、生活が向上する見通しもない、しかし、ルールはルールと
なんか陸にあがった魚みたいな気持ちだった。